『SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』書評

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知人の紹介で年末に「流通空論」というポッドキャスト番組を知りました。

番組のコンセプトについては、以下の通り。

ラッパーでクリエイティブディレクターのTaiTanによるPodcast🚛
「流通」とはなにかを解きほぐしながら、ゲストたちと⾃由連想形式で「空論」を展開する、新感覚の「放⾔ビジネスプログラム」です。
流通にまつわる既存のルールを変えてきたゲームチェンジャーをゲストにお迎えして、ヒット商品誕⽣の舞台裏から新システム浸透の背景まで、「企て」のすべてに迫っていきます。毎週月曜日朝5時に配信。

流通空論 | Podcast on Spotify」より引用

番組自体が面白く1話聞き始めると止まらず、つい年末に余暇時間が多めにあったこともあり、過去配信分を聞き尽くしてしまった。

中でも特に、本明さん(スニーカーショップ「アトモス」を手がけたことで有名)の回が面白く、配信回の中で自著(『SHOE LIFE』)について、次のように言及されていました。

『SHOE LIFE』の方は、まあ、僕の歴史が書いてあるんですよね

コンビニのおにぎりは「美味しい」から売れるのか?(本明秀文さん後編) 」28:15〜

そんなこと言われたら、どうしても読みたくなってしまうじゃないですか(笑)

そこで自然と、『SHOE LIFE』を手に取り読みはじめました。

概要

本書は、ご本人もおっしゃる通り、本明さんの歴史によって構成されています。

高校卒業後に単身渡米し留学、留学中に古着ビジネスでひと儲けを経験し、留学を経て日本で就職、その後数年で会社を退職し並行輸入ビジネスにのめり込んでいき、のちに法人化しスニーカービジネスにピボット、そこから約20年で会社には400億の価値が付くように…その過程での発見や気づき、出会いなど、事細かに描かれています。

実は自分、あまりこういった実業家の本ってあんまり好きじゃないんですよ(苦笑)

だって説教くさい内容の本ばっかりじゃないですか。

でも『SHOE LIFE』はそうじゃなくて、もっと気さくで明るくて、「自分はこうやったんだけどね。だって○○○じゃない?」といったテイストの文面で構成されていて、すごく読みやすかったです。

価値があるものはどうすれば見つけられるか

本書は基本、本明さんの体験ベース、事例ベースで話が展開していきます。

そして、それらの話はいずれも「価値があるものはどうすれば見つけられるか」という話に結びついているように感じました。

本明さんは「みんなが知らない情報を知っておくこと」と「みんながやらないことをやること」の2つを実践することで、「価値があるもの」を探す上で必要だと思われているようで、実践されているように思います。

(1)みんなが知らない情報を知っておくことの価値

みんなが知らない情報を知っておくことの価値について、さまざまな形で言及されています。

例えばこのアディダスのスニーカーについての言及。

僕が中学生のときに、上野で2980円で買ったその古いアディダスのスニーカーをお客さんが見て、「2万円で譲ってくれませんか?」と聞いてきた。

同じような古いスニーカーなら、フィラデルフィアのジャーマンタウンや、ニュージャージー州のカムデンに行くと、韓国系のパパママストア(家族経営の小さな店)で売っている。しかも在庫として、10~15ドルで売られているのを知っていた。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

これによって本明さんは、「実はスニーカーの輸入販売がブルーオーシャンなのではないか?」ということに気づきます。

このように自分自身が生涯かけて行なっていくようなスニーカービジネスとも、このようにちょっとした情報をもとに、運命的に遭遇されています。

こういった情報は、実際こまめに、足で稼がれていたようです。

毎日誰かと会っている。僕は人と会うのが大好きだから、1日に最低でも5~6人と会って、オンラインミーティングは基本的にしない。便利だとは思うけど、人と会って喋らないと”どうでもいい話”が出てこない。だけど、どうでもいい話の中にこそ、儲け話のヒントがあるのだ。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

移動では、周りがどんな靴を履いているかを見たいから、電車やバスしか使わない。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

ただ自社の店舗の状態であったり、毎日把握したいもののご自身で把握が難しいものについては、各店舗の店長に共有をお願いしていたりもされたようです。

僕は、ストックルームと路面店のトイレが綺麗かどうかを確認するため、毎日営業前に各店長に写真を送ってもらっている。メンズサイズの場合、25.5cmから30.00cmまでのハーフ刻み。同じ箱に入っているし中身が見えないから、常にストックルームをきちんと整頓しておかないと時間ばかり食ってしまう。だから在庫を覚えて、お客さんの足を見た瞬間に、その人のサイズをすぐに予想できないといけない。「27cmはありますか?」と聞かれたときに、在庫を把握しているか…

(中略)

…仕事として、その知識を育てるには、時間がかかることだけど、苦労して身に付けた知識によって説得力が増し、ただのスニーカー好きとは全く異なるものになる。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

実際に本明さんの X を見ていると、街中で足をかなり見ているほか、各販売店へのトラックの入荷状況を見て、トレンドを読んでいることが伺えます。

また「情報」については次のようにも言及されており、とても大切にされていることが伺えます。

今も昔も情報の拡散や解釈はとても大切だ。情報戦に負けるのは、商売にも負けることを意味すると言っても過言ではない。世界の流れ、国や地域の流れ、商品の流れーーー。この大、中、小の情報のどれが欠けてもうまくいく確率は下がる。だから僕は毎日、情報収集をかさず行っている。大きな情報は新聞を読み、小さな情報は人と話してインプットする。そして本屋に行き、平積みされている本のタイトルを見て、世の中のトレンドを分析する。情報収集の時間の使い方が、お金儲けの尺度を決めるのだ。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

「SNSの方が、もっと効率的に情報を集められるのでは?」

そのように考え、行動される方も多いのではないでしょうか。

本明さんは本書にて遠回しに「SNSにはガセ情報が(生の声に比べて)多い」とも受け取れる内容について言及されており、あまり SNS 上の情報は重要視されていないことが伺えます。

SNSがない時代、全ての情報は生の声ばかりだったから、ガセ情報はほとんどなかった。面と向かって話して仕入れた情報の密度は濃い。一方、情報がごしている今は情報の密度が薄くなってしまった。だから、できるだけ人と会わないといけない。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

(2)みんながやらないことをやる

本書を読んでいた際にも思ったことなのですが、「…普通そんなことやらなくない?」といったことを本明さん、結構率先してやられているんですよね。

例えば、最前列のチケットを獲得するくだりのところ。

アメリカのカレッジスポーツの最前列のチケットを、当時から朝から売り場に並び、入手されていたようです。

アメリカのカレッジスポーツは、プロを勘ぐ集客力を持つこともある。だから、試合のチケットも簡単には手に入らなかった。それなのに僕は、毎試合、最前列のチケットを持っていたのだ。当時はチケット売り場に朝から”並ぶ”なんてのは、日本人の僕くらいで、アメリカ人にとってはあり得ない行為だった。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

またこれによって、チケットを他の人に融通して交流を作ったり、人脈を広げるために活用されていたりもしたようです。

また勉強ができない友達の面倒も率先して見て、結果その友達がのちにイーグルスの関係者との繋がりを作るきっかけを提供していくれたりしたこともあったようです。

見捨てておけない性分の僕は、「母ちゃんを泣かせたらダメだろう!」とアレックスを説教し、得意分野の数学を教えることにした。それだけでは心配だったので、テストのときには僕の隣に座らせて、答案用紙をこっそり見せた。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

アレックスが、「お前、イーグルス好きなのか?だったらチケットを買わせてやるよ」と言う。そのときは、「さすがに冗談だろ?」と、半信半疑だった。ところが、アレックスは数日後、本当にイーグルスの関係者を紹介してくれた。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

自分から率先して人に話しかけて関係性を構築し、そのあまたある人脈から稀にビジネスにつながるものが生まれるのをこぼさずにキャッチするのは至難の技です。

しかし、本明さんはそれをいくつも実現していきます。

「みんながやらないことをやる」ことの効用については、のちのちアトモスを立ち上げて以降取り組まれる、世界初のエアフォース1の別注や、スポラボの立ち上げにも通ずる点があるのですが、本書ではそれらについても詳細に語られています。

仕掛け方について、ここまで赤裸々に語られている本は珍しいかも

実際に当時、「どのようにスニーカートレンドに介在していたのか」についても、本書では事細かく書かれています。

本書の中では「PR」といった言葉を使われていません。

しかし、メディア側が求めるものを自然と把握し、ビジネスチャンスを創出していく姿勢からは、特に「広報」という立場でお仕事をされている方が見ても、学ぶものが多い内容となっています。

例えば当時、雑誌に通販広告を出すには、ページの3分の1ほどのスペースに小さなスニーカーの写真と値段を載せる、通称「3分の1広告」が45万円だった。チャプターもそこに広告を出していた。だけど、編集部が欲しいスニーカーを日本で一番早く手に入れ、誌面に掲載してもらう方が、広告を出すよりもはるかに大きな効果があった。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

「street Jack」編集部のイシハラさんとは、週に1~2回、会食をする仲だったので、「このスニーカーを推そう」とか「こういうテーマはどう?」とか、僕たちにしか集められないようなスニーカーを貸し出して、誌面を構成してもらうことも多かった。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

会社の価値は何か?

自分は本書を通じて、「この人は経営者として本当に強いな」と思いました。

なぜそう思ったかというと「自社の強みが何か」ということを、本当の意味で正確に理解していたからなんですよね。

本明さんは自社が生き残れた理由として「売れるものを見極める力」を上げています。

チャプターは、僕たちが現場でつかんだ勘と嗅覚で、世界中から売れるものをとことん集めてきた。

現場のあらゆる情報からメーカーよりも先に需要予測して、売れるものの量をとにかく積んだ結果、チャプターは単店でも30億円近い売り上げを作ってこられたのである。この売れるものを見極める力こそ、スニーカーブームの波を何度も経験してなお、チャプターが生き残ってきた一番の理由だ。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

基本追加発注ができないスニーカービジネスにおいて、発売9~10ヵ月前に行うフューチャーオーダーでいかに自分たちが最大限販売できる数を正確に理解しオーダーできるかということが、商材そのものや価格で差別化が難しいスニーカービジネスにおいて、いかに成長に直結する最重要事項であるということが、鮮明に伝わってきます。

またこれは会社というよりも本明さんご自身の強みでもあるのですが、キャッシュフローや細かいお金の流れについて、かなり正確に把握されていたことも1つの強みであったのではないかと思います。

実際、お金に関するエピソードは、数多く登場します。

なお僕は、商売はキャッシュフロー(現金の流れ)が命だと思っている。試算表こそあまり見ないけど、入金を管理するキャッシュフロー計算書は毎日必ず確認する。そして、いつどこからいくら入金されるかを全て把握している。純資産、負債、資産、短期借入金、長期借入金、そして現金(キャッシュ)がいくらあるのか。リスクを予想するには、キャッシュフローを見るしかない。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

また関税についてもかなり深く把握されており、長年さまざまな形で試行錯誤された結果、そういった知識を身につけられたものと思われます。

例えば、新品のスニーカーは、27%の関税が取られる。だけど、箱がなければ中古品として扱われ、7%で済む。それに、アメリカでは州によって州税も異なる。スニーカーや服をニューヨークから送ると8.75%の関税がかかるけど、ニュージャージー州やペンシルベニア州からであれば、関税はかからない。それに…

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

100ドルで買い付けても、10%の税金がかかると110ドル。ただし税金がかからなければ、それだけで100ドルも利益が出る。そういった知識を活かして、「負けないコスト体質」を早くに確立したのも、並行輸入店が建ち並ぶ原宿で、チャプターが最後まで生き残った理由の一つだと思う。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

特にインターネットが本格普及する前、いかに他と比べ「時差」を作れるかも1つの武器でした。そういった時間や時差に関するエピソードも、本書では登場します。

僕はライバルたちとさらに差を広げるために、自分で輸入通関手続きを行っていた

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

チャプターは、日本未発売のスニーカーが日本で初めて見られる場所だった

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

速さがサービスの向上になると感じていた。お客さんの時間を無駄にしない、より速い流通や提案の仕方が、お客さんの満足度につながり、支持を集めることができるのだ。

SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』より引用

大きな粗利を産みにくい、いかに素早く価値に気づきモノを手にできるかがビジネスの要諦である世界において、時間とお金の重要性を一番理解しているからこそ、そういったお金に関するエピソードが次々に出てくるのかな…と考えさせられました。

最後に

しいて「もっとこう書いたらよかったのに…」と思う点をあげるとすれば、本明さんの口調に寄せた文体でも良かったんじゃないかと思います。

個人的に、動画などで見る本明さんの喋りがすごく好きなので、初見の方だと本書の文体の方が読みやすいですし、翻訳とかもきっとしやすいんでしょうけど。

また本書は2022年に刊行されたものであるため、最近の本明さんの挑戦であるおにぎりについての言及がなかったため、そちらについて気になる方は冒頭のポッドキャスト番組を聞かれることをお勧めします。

僕も読了後に向かい食べましたが、とっても美味しかったです!

(書評執筆後に本明さんが現在手がけられている原宿の Cafe ぼんごを訪問、しゃけ、よかったです)

文責:川手 遼一