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ケンタッキー(日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社)が「ケンタッキー」と指名検索したエンドユーザーに対して表示しているリスティング広告の使い方がとてもよく、色々と調べて行ったのですが結論「大変素晴らしい」と思ったので、本日はその件についてまとめてご共有します。
当記事はあくまで公開情報からの推測をベースに書かれたものであり、日本KFCホールディングス株式会社の意図した取り組み(事実)とは異なる可能性があります。その点あらかじめご了承ください。
目次
実際に配信されていたリスティング広告ですが、次のような形になります。
そもそもリスティング広告には、下記のような特性があります。
- すぐに配信開始でき、好きな時に停止できる
- 公式TOPとは別のページに遷移させることができる
- 地域や年齢、デバイス情報、オーディエンス情報を用いた配信調整も可能
それを理解した上で、「ケンタッキー」と検索した一定のユーザーに対して、月見バーガーをプッシュするリスティング広告を配信しているわけです。
また検索広告以外にも月見バーガー関連の動画広告も展開していますが、そちらについては本題からずれるため、今回は触れません。
単純に見ると「ケンタッキーという名前を上手く使って、トレンド性の強い商品をプッシュしているなー」という感じに終わってしまうかもしれないのですが、それは表面的な話でしかないため、そこだけ見て認識していると少しこの取り組みを誤解してしまうかもしれません。
もう少し、深掘りして解説していきます。
本題に入る前に、前提情報から見ていきましょう。
日本では「ハレの日」のイメージが定着しているケンタッキーですが、実はコロナ禍でも売り上げが落ちず、もっとも外食産業が冷え込んだ2020年4~6月に、過去最高(当時)の営業利益(例年同期間比)である12.8億円を記録するなどしていました。
「ケンタッキー=ハレの日」のイメージも強い方の中には「あれ…みんなで集まって食べる機会もないはずなのに…なぜ?」となる方も少なくないかもしれません。
参照:なぜ今チキン?絶好調ケンタッキー2つの勝因 コロナ禍でも最高益、外食「勝ち組」に躍り出る | コロナショック、企業の針路 | 東洋経済オンライン
理由は複数ありますが、その理由の1つに2018年から進めていた「エブリデイブランド」へのリブランディングにあります。
2018年からケンタッキーは「ハレの日ブランド」から「エブリデイ(日常)ブランド」を目指し、リブランディングを日本市場で行っています。
参照:「今日、ケンタッキーにしない?」のキャッチコピーがマーケティング的に最強な理由
詳しくは「2021年度-2023年度 中期経営計画 『第二の創業 これから50年の持続的成長に向けて』」という資料にも書かれているのですが、具体には次のように書かれています。
要点だけ抜き出すと、次の3つがエブリデイブランドへのリブランディングの要(かなめ)としての取り組みになります。
- 魅力的な商品・プロモーションの展開
- デリバリー対応の強化
- デジタル戦略
つまり、これまで既に定着していたケンタッキー=パーティーセットといったようなイメージからの脱却を図りつつ(またさりげなくDXも同時に進めながら)2018年から上記3つの取り組みを重ねてリブランディングを数年かけて進めエブリデイ(日常)ブランドとなり、それによってフライホイール効果が働き、そういったものの結果が数値になってコロナ禍に表れたのです。
「月見バーガー」1つとっても、次のような取り組みが行われています。
- 魅力的な商品・プロモーションの展開:月見サンド(当時)の登場
- デリバリー対応の強化:実施店舗増(「KFCデリバリー」ので対応のこと)
- デジタル戦略:「月見サンド」から「月見バーガー」への名称変更(おそらくSEO、UGCの観点から)やリスティング広告、YouTube広告やX(旧Twitter)広告への予算投下
つまり、単に話題性がある月見バーガーを「ケンタッキー」というネームバリューを活かしてリスティング広告で伝えようとしているわけではなく、「エブリデイブランド」というゴールに向けて、ブランディング戦略のうちの1つの戦術としてリスティング広告を活用するなどしているわけです。
参照:KFC、『サンド』名称変更した真意を聞く 否定的な意見も『バーガー』売上が大幅増になったワケ
DXを進めるにあたり広告の予算もアロケーションし、Web広告に対して投資するような調整も行われているようです。
別のファストフードチェーンの幹部は「ケンタッキーのCMを見る機会が本当に増えた」と警戒する。広告にかける予算を増やしていないのに、だ。
「客数20%増!「ケンタッキー」超復活の仕掛け人 急成長の「裏」には1人の女性の姿があった | あの企業のチェンジリーダーたち | 東洋経済オンライン」より引用
従来はテレビCM一辺倒だったが、現在はTwitterや、TikTok、YouTubeといったデジタルメディアにも広告を出す。当然、マスメディアよりも少ない費用で広告を打てるうえ、弱かった若年層へのアプローチもできる。あらゆるメディアに登場することで、どこかでケンタッキーを思い出してもらうことにつながった。
「客数20%増!「ケンタッキー」超復活の仕掛け人 急成長の「裏」には1人の女性の姿があった | あの企業のチェンジリーダーたち | 東洋経済オンライン」より引用
実際一昨年はTwitter広告を使って月見サンド(当時)の広告展開も行っていたりするので、じわじわと色々展開を進めているようです。
参照:Twitter広告・会話の貢献(ケンタッキーフライドチキン編)
広告のリンク先の中には Uber Eats の文字はありません。
おそらく意図して、デリバリーを希望するユーザーがサイトにきたら、KFCデリバリーで配達することを目的としてサイトも設計しているはずです。
以前にマクドナルドが指名検索に対してマックデリバリーの広告を配信している件を note でシェアしたことがあるのですが、それと同じようにケンタッキーも KFC デリバリーによるシェアを増やそうと試みているのでしょう。
参照:日本マクドナルドが今、指名キーワードでリスティング広告を出稿する本当の理由についての仮説|川手 遼一
Uber Eats 経由で注文するのと、KFCデリバリーに直接注文されるのとでは、以下2点で非常に大きな違いがあります。
- 収益構造
- 配達時のサービス徹底可否
Uber Eats を使う場合、手数料(一般的には35%+消費税)が事業主側に負担としてかかるため、そのぶん店頭で買うのに比べて、料金を上乗せしているケースが多くあります。
もちろんケンタッキーは Uber Eats に対して交渉しディスカウントしているはずですが、それでも手数料は大きくのしかかっているはずです。
参照:Uber Eatsの支払い画面の見方(飲食店側)|外食webコンサルタント『MSPドラゴン』
また配達員は従業員ではないため、ブランド管理が行き届かず、顧客体験をコントロールできないリスクがあります。
単純な金銭面的事情もありつつ、そういったあらゆるリスクも考慮しているからこそ、KFC デリバリー割合を増やそうと動いているのではないでしょうか。
ケンタッキーがリスティング広告で(それも指名検索で)「月見バーガー」をプッシュする理由は以下3つの通りです。
冒頭で触れた通り、現在 YouTube 広告なども同時展開しているため、単純に指名検索でも広告配信を行うことで…
- どの程度指名検索が増減したか
- 見出しに「月見」が入ることでクリック率は変わるのか
- 見出しに「月見」が入ることで「店舗検索」「ネットオーダー」への遷移率は変わるのか
上記のようなデータを集めている可能性は考えられるでしょう。
最も重要なのは「誰に月見バーガーの情報を届けるのか?」ということです。
例えば、わざわざ店舗に行けば購入可能なものを Google などで指名検索するユーザーとはどのようなユーザーが考えられるでしょうか。
- 近くにケンタッキーがないか探している人
- ケンタッキーで行われているキャンペーン、新商品に興味関心がある人
- ケンタッキーの取り組みを知りたい人
例えば「1.近くにケンタッキーがないか探している人」が「ケンタッキー=ハレの日」のままのイメージであれば、もしかしたら広告を見て「え、ケンタッキーってバーガーも売ってるの?」となり気になって来店し、その後も定期的に店舗やKFC デリバリーをリピートしてくれるかもしれません。
遠方に出かけてわざわざケンタッキーにいくとは考えにくいので、もしかすると引越してきたばかりの人で、その後も特定の店舗を贔屓にしてくれるLTVの高いお客さんになってくれるかもしれません。
YouTube広告などで月見バーガーの存在を知り「ケンタッキーで行われているキャンペーン、新商品に興味関心がある人」「3.ケンタッキーの取り組みを知りたい人」となった方々が指名検索し広告をクリック、結果来店してくれるほか、初めてKFCデリバリーで注文し、リピーターになってくれるかもしれません。
これらの人々に共通するのは、すでに「ケンタッキー」というキーワードは知っているという点です。
しかし生活様式の変化などで来店することがなくなり、ある種の休眠顧客状態になっていたような人も多いのではないでしょうか。
指名検索に対してリスティング広告を配信をすることにより、そういった層にもアプローチしているわけです。
ケンタッキーが一番伝えたくて、ユーザーが一番求めている可能性が高い情報をリスティング広告として、指名検索に対して出稿するのは、ある種のおもてなしかもしれません。
例えば、ケンタッキーは下記資料の中で「QSC×H」としてホスピタリティ(おもてなしの心)をプッシュしています。
(2)ともやや被ってきますが、リスティング広告はあまり広告味がないため、もしかすると指名検索してくれるようなユーザー層に自然と情報を届ける役割を担ってくれているのかもしれません。
自分も X でポストを見るまで知りませんでしたが、ケンタッキーはおもてなしという観点において、 Uber Eats 上のテキストや商品設計もこまめに調整するほどにこだわっているようなので…
もしかすると結構本気で、今回のリスティング広告を用いた取り組みも、ホスピタリティの一環として展開しているかもしれません。
すでに月見バーガー市場で第一想起を得ているのは、おそらくマクドナルドです。
実際マクドナルドも指名検索に対して月見バーガーをプッシュするような広告を展開するようなこともあるため、一見すると「マックの施策、単にマネしているだけでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、ケンタッキーは「エブリデイブランドへのリブランディング」という前提のもと施策に取り組んでいる点が、マクドナルドとは大きく異なる点です。
ただ、もちろん単に「マックだけに取らせるわけにはいかない」という感情論的な思いだったりも、当然あると思います(これはおそらくモスも、エブリデイブランドとしては競合になるわけで)
そういった思いから各社色々と画策するわけですが、そういったものが戦術レベルでこうやって表面化されているのって興味深いですよね。
マクドナルドも似たような形で指名検索を使いますし、ジャパネットたかたも今年に入ってからはそこまで大きな動きはありませんが、昨年は次のような形でよく指名検索に対してリスティング広告でアプローチを重ねていました。
つい見落としがちですが、もし工夫できる余地があるのであれば、創意工夫することでリスティング広告の価値をより引き出せるかもしれません。
また指名検索へのリスティング広告の展開は「そもそも予算をかけてやるべきなの?」と議論のタネにもなりがちです。
参照:指名キーワードで広告配信した方が良い?6つのメリットとたった1つのデメリットについて解説
そういった際はそのことをきっかけに、今回のような施策を参考に、自社やクライアントの広告集客の形として最適なものを再考してみても良いかもしれません。
文責:川手遼一