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先に結論を述べてしまうと、ここ数年読んだ新書の中では群を抜いて良い一冊でした。
目次
著者の斎藤氏は通販業界歴30年以上の大ベテランで、本書の中で特に、1970年代からの実体験を踏まえた数々の通販成功事例を惜しげもなく教えてくれます。
本書にて成功事例として挙げられた「ルームランナー」「スチーム暖房」の話が個人的には大変興味深かったので、ピンポイントでまとめたものを本記事ではご紹介します。
斎藤氏は40歳の頃に「通信販売をやろう」と考え至り、翌年76年に「ルームランナー」を販売し始めます。
まずはこれが最初のヒット商品になり、大成功を収めます。大成功することができた主な要因は以下の2つです。
著者はルームランナーの最大の成功要因として、以下のように振り返っています。
『ルームランナー』は通信販売という広告で販売したからヒットしたんだ。
『なぜ通販で買うのですか』より引用
当時既にルームランナーは市場には存在していましたが、そこまで一般認知はされていませんでした。ルームランナーの多くは昔ながらの街の売り場で販売していましたが、それでは売れないわけです。
単純に40年以上前の場合、町中で「ルームランナーはどこで売っていますか?」と聞いても答えられる人が少なかったというのもありますし「ルームランナー=コンプレックス商材」という側面も少なからず影響しているでしょう。
当時は栄養失調などは減りつつもゆるやかに生活習慣病など増え始めた頃です。
健康面を気にしてそういったものを買いたいと思ってもユーザーは「あれこれ詮索されたくない」という思いも今より強かったのかもしれません。
ユーザー側の「詮索されずに買いたい」というニーズに対して通販は上手くハマったという点も、販売数を伸ばす上で大きく影響したように思います。
70年代は日本国内で再開発工事、公害問題が深刻化していたという背景があったことも考慮すべきです。実際に斎藤氏は「空気が汚くてランニングができない」といった旨を織り交ぜた記事広告も手掛けており「運動したいけどできない人」の不安や不満をルームランナーでは解消できる点をその中で強く訴求しています。
また著者は「70年代」という時代にも恵まれたとも回想しています。
70年代に入って、わが国では通信販売が認知される社会になっていた。私の幸運は『ルームランナー』をその70年代に販売したことである。(中略)『ルームランナー』を60年代に通信販売していたら、おそらくマルマンと同じように失敗していたにちがいない。私は運のいい男だった。
『なぜ通販で買うのですか』より引用
通販がそもそも認知されていなかった60年代に通販でルームランナーを販売し上手く行かなかったマルマンと自社を比較し、その点については「時代に恵まれた」と分析をしているわけです。
つまり、ルームランナーを通販で売るだけではダメで、70年代という時代の流れの中で売るだけでもダメで、70年代に唯一の販路として「通販」を選択し、時代の文脈を織り交ぜた記事広告を全面に打ち出したことが結果的にルームランナー販売を成功へと導いたという訳です。
これらはすべて結果論ではありますが…もはやこの手際の良さ、ちょっとウットリしてしまいませんか?
「ルームランナー」のヒットから10数年後、他にもヒット商品を抱えつつも80年代後半にデロンギのパネルヒーターを取り扱い始めます。
先に結論を書いておくと、デロンギのパネルヒーターは売れに売れ、本書刊行当時(2004年)発売開始から17年経過してもなお、年間の売上上位商品5位から落ちてこない不動の人気商品になっています。
そして特に注目すべきは、このデロンギのパネルヒーターが元々は「代理店がもっとも売れずに困っていた不人気商品だった」という点にあります。
パネルヒーターは元々「補助暖房」と呼ばれる、日本ではあまり馴染みのない暖房器具の部類のものだったため、家電量販店などに並べておいてもあまりインパクトがなく、そのため販売数を伸ばしていくのが困難だったのです。
斎藤氏は「使用価値は買い手が決めて良い」「場所を限定化する」「ターゲットを絞り込む」という3つを実践し、パネルヒーターをヒット商品へと躍進させていきます。
斎藤氏はまず「使用価値は買い手が決めて良い」と考え「補助暖房」ではなく「主暖房」としてパネルヒーターを売り出そうと考えます。
「補助暖房」が耳馴染み無い日本において「補助暖房」としてパネルヒーターを売ることは困難を極めるという判断のもとでしょうが、これは一見単純な行為に見えて非常に攻めた戦略です。
パネルヒーターは「主暖房」ほど暖かくなく、更に暖かくなるのに時間がかかる商品です。
実際に暖かくなるのに30分ほどかかってしまうため、その点においては石油ストーブや通常のヒーターに比べて劣ります。また一定以上暖かくなると主暖房に役目を譲り停止するなどといった特性もあります。
そこで「パネルヒーターを求める層」を明確化すべく、著者はターゲットの絞り込みをはじめます。
まず著者は80年代について次のように懐柔し、本書の中で考えを述べています。
80年代後半期、街には同じような商品が充ち溢れ、すでに飽食している消費者の食欲をかきたてるためにせわしないモデルチェンジが行われていた。別な言い方をすれば、我が国の消費者たちは便利が生み出す不便、その不便を解消する便利、その便利が生み出す不便の無限競争に巻きこまれていた。
『なぜ通販で買うのですか』より引用
実際に技術的にも優れたものが溢れ出したのもこの頃ですが、しかしその一方で既存の「優れたもの」に対する不満も高まりました。
暖房器具に関して言えば以下はその一例です。
- エアコン(の暖房)=暖かいけど、温風に当たっていると喉が乾燥する
- 石油ヒーター=暖かいけど換気が必要、臭気が気になる
- ガスヒーター=暖かいけど、匂いが気になる
著者はその「暖かいけど…」に目をつけ「パネルヒーターを必要とする人はどんな不満を抱えていて、どこで使用するのか」と考えを巡らせます。
著者は「寝室」で暖房を使用したいユーザーにターゲットを絞り込み、87年秋に次のようなコピーで広告を打ち出します。
寝室に置いておくと、ひと晩中ホテルに泊まっているような快適さ。
『なぜ通販で買うのですか』より引用
うーん…川手はこのコピーを読み、深く感心してしまいました。
つまり実際に主暖房に対するユーザーヒアリングを行い不満をまとめ、その不満を最も多く抱えている人が「主暖房を使用したいけど使えない場所」として「寝室」を特定し、そこでパネルヒーターが主暖房として性能を発揮できることを広告に織り交ぜ、そこに特化した広告を打ち出したわけです。
確かに寝室の暖房はコントロールが難しく、暖かすぎても寝苦しいですし、寒すぎると中々寝付けなかったりします。特にパネルヒーターが持つ「また一定以上暖かくなると主暖房に役目を譲り停止する」は寝室にはベストフィットするに違いありません。
実際にその後パネルヒーターは飛ぶに飛ぶように売れたそうで、もう何も語る言葉はありません。見事な手腕です。
自分は毎年寒くなってくるとこのパネルヒーターの逸話を思い出し、時たまツイートしています。
現代の Web 広告のクリエイティブ制作にも応用が効く、非常にベーシックでありながら重要なセグメンテーションの実例として、多くの広告運用者が知っておくべき事例ではないでしょうか。
最後に
ここで紹介したノウハウは一例ですが、本書の中では他にも掃除機やコーヒー豆、婦人服など通販での成功事例が複数掲載されています。
正直このデロンギの事例を知るためだけでもいいので、Amazonで購入し一読してみてもいいのではないでしょうか。
刊行は2004年なので既に発売から20年近くが経過しています。
しかし内容は全く古びておらず、自分はこの本に書かれている「通販」の考えを現在の Meta 広告(Facebook 広告)や動画広告の話に置き換えながら定期読み返したりするなどしています。
そういった使い方もできる、手元には一冊置いておきたい、非常に優れた良書ではないでしょうか。
文責:川手遼一