イベント「ニューロテクノロジー、行動経済学(ナッジ理論)の運用型広告への応用」に参加しました

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先日弊社主催で行われたイベント「人の行動を促すクリエイティブとは?ニューロテクノロジー、行動経済学(ナッジ理論)の運用型広告への応用」に社内側の人間として参加しました。

自分自身は登壇者の1人であった茨木さんのご著書『ニューロテクノロジー』を事前に読んでおり、そのことを Twitter 上でも話していたりしたので(当日それをアイスブレイクネタに使われる事、最後に指名質問がくることは知らなかったので焦った!)割と全般的に学術チックな内容であったにも関わらず、当日内容はすんなりと理解する事ができました。これはもちろん茨木さん、小林さんが初学者にもわかりやすいように丁寧にわかりやすく話して下さったおかげでもあるのですが…。

この記事では実際に参加した上で興味深かった点、疑問に思い質問した点、考えさせられた点についてお伝えしたいと思います。

興味深かった2つの話

全編通じて興味深い話の連続だったのですが、特に個人的に興味深かった話を2点だけまとめて記載しておこうと思います。

(1)クリエイティブの天井をどうブチ破るのか?

茨木さんは「(広告を)最適化をするだけでは飽和していくだけ、如何にして”クリエイティブの天井”をどうブチ破るのかが重要なのでは?」という切り口に対して、ニューロテクノロジーにおける「仮想脳」という1つの手段を提示してくださいました。

そもそもこの指摘は広告運用者の多くが抱えている悩みであり、自分も含めDAN爵さん@NYUSQUARE のツイートにもあったように「まさにその通り!!」と心のなかで叫んだ広告運用者も多かったのではないでしょうか。

「そもそも仮想脳とは?」という方は下記記事内で非常にわかりやすく解説されているため、そちらをご確認ください。

【参照】仮想脳が選び出す「消費者にもっとも刺さる広告」

上記記事の中にもある通り、実際の事例も交えて教えていただくことができ、実際に「仮想脳」を使って反応が良かった広告で成果が出た事例を細かく共有して下さいました。

(2)ナッジ理論とスラッジ(ヘドロ)の話

「仮想脳」は1手段として有効かもしれませんが「では明日から仮想脳を作りますね!まずは…」というわけにもいきません。その点小林さんが話して下さった「ナッジ理論」のお話は割と馴染みやすく、明日からの仕事にも活かせる…と思った広告運用者の方も多かったのではないでしょうか。

「そもそもナッジ理論とは?」という方は下記ページに詳しくまとめられているので、興味があればそちらをご参照ください。

【参照】【あなたも操られています】ナッジ理論とは?具体例で解説|仕事に使える行動経済学

例えば下記図のように「右と左、どちらが訴求力が高いでしょうか」といったワークショップを通じてナッジ理論についての理解を深めることができたほか、ナッジ理論は広告に限らず社会的なルールや決まりごと、資源分配の最適化やシステムの利用促進など、様々な側面で世界中で使用されていること、そして逆にスラッジ(ヘドロ)と呼ばれるようなナッジ理論を道徳的に反した形で悪用する企業も存在することについて教えて頂きました。

元々自分は経済学部だったので、ナッジ理論や行動経済学という言葉自体は当然知っていましたし、スライド資料の引用元となっていた『予想通り不合理』なども一読していたので、感覚的に理解したつもりではいました。

ただし日々のクリエイティブ1つ1つを作る際に「ナッジ理論」を意識して作り込めていたかといえばそうではなく、イベント中も「今あの訴求をしているLPは、もっと別の言い方にすればナッジ理論が働き訴求力が高まるかもしれない…」などと考えふけっていたりもしました。

質問したこと

実際にイベントに参加された方(120名ぐらい?)はご存知かと思いますが、2つほど登壇された茨木さんにご質問をしました。

1.仮想脳はどのぐらいの人間のデータを使って作る物なのか

そもそも興味本位ですが、仮想脳を作る上で参考にするローデータがどの程度必要なのかが気になりました。

「ある一定の脳活動が購入時に見られる」という現象が起こるのは理解できるがですが、ベースとなるデータは必ず存在していると考えたためです。また前述記事を読み初めて知りましたが、機械学習などにより実際には動画の特徴から脳活動を予測したりする技術も応用して組み込んでいるようです。

これに関しては茨木さんから「UUというよりも膨大なエンゲージメントを利用しているイメージです、それは1ジャンルの購買に特化した仮想脳をつくるのに数百〜数千万という数」とご回答頂きました。

2.仮想脳を使って負けたケースがあった件について

仮想脳を用いたクリエイティブの方が注文数が多かったという結果が出たものの、細部(地域別?)においては負けたケースもあったという話がひっかかり、この点について「どのような理由で細部で負けた部分もあったのか、検証しているのであれば考察だったりを教えてほしい」という質問をしました。

自分の中では2つほど回答として上がってくる候補がありました。

  1. エリア別で広告視聴層が異なっていたからではないか(例えば関西と関東で、同じTV番組でも視聴者の指向性が異なるなど)
  2. 購入数が細部(地域)によって数が大きく異なるため、統計的に購入数が少ない地域の場合は有意性のあるデータが取得できなかったため誤差の範囲として処理した

この件については前提が異なるのか「そもそも検証はしていない」という回答を頂きました。

色々と考えさせられた「仮想脳」の話(極めて個人的な感想)

実際に冒頭でも話にあったとおり「(広告を)最適化をするだけでは飽和していくだけ、如何にして”クリエイティブの天井”をどうブチ破るのかが重要なのでは?」は極めて的確な問いであり鋭い指摘だと自分も思うのですが、ある程度ぶっ飛んだ結果を出すには、ぶっ飛んだ広告を作ってぶっ飛んだ配信をするしかないということを日々の業務を通じて肌感覚レベルで感じています。

「仮想脳」で様々な素材を用いた制作パターンを確認し、もっとも購買に関する脳活動が活性化する広告で反応が取れる…というのはよく分かるのですが、ただあくまでもそれでは「既存の素材を如何に上手く使い最適化を図るか」という域を出ないため、例えるならば「冷蔵庫の余り物を如何に活用して美味しいチャーハンを作るか」といったような域を出ない話なのではないか?と直感的に疑問に思いました。

例えば東浩紀氏の『動物化するポストモダン』の中では「データーベース消費」という形で、2,000年代前後以降のオタク系商業作品に対してかなり踏み込んだ指摘を行っています。

内容を要約すると、オタクが「深い」や「泣ける」という商業作品の数々は、実は部分的に過去の成功作品などで使用された要素(例えば「アホ毛」「病弱なヒロイン」など)を使いまわしているだけで、そこには物語的迫力、メッセージはなく「ただただ効率よく感情が動かされるための方程式が存在しているのではないか?」という指摘です。またそれらに反応する彼らの事を氏は作中で「動物的」であると評しています。

以下は著作からの引用です。

彼らが「深い」とか「泣ける」とか言うときにも、たいていの場合、それら萌え要素の組み合わせの妙が判断されているにすぎない。九〇年代におけるドラマへの関心の高まりは、この点で猫耳やメイド服への関心の高まりと本質的に変わらない。そこで求められているのは、旧来の物語的な迫力ではなく、世界観もメッセージもない、ただ効率よく感情が動かされるための方程式である。

動物化するポストモダン』より引用

少し話は飛躍するかも知れませんが、自分も広告が現在抱えている問題の構造は非常に似たような点にあるのではないかと考えています。

例えば広告を作る際も KBF(購買決定要因) と呼ばれるものが非常に重要視され用いられることが多く、それらを広告上に盛り込もうとするケースは多くあります。

しかし、これは東浩紀氏の言うところの「方程式」であり、迫力も世界観もメッセージもないものです。そのためこれらを使い回すだけでは天井をブチ破ることは困難に思います。

また広告だけに限らず「ある程度成果の出るランディングページ」というのは構成も似たり寄ったりなケースである場合が多い傾向にあります(例えばサプリ商材であれば LP に必ず「お客様の声」が挿入されているなど)。

別にこれらが間違っているというわけではないですし、それらが存在することにより平均点以上の結果は出るのですが、そのような使い古された要素を構成上に入れたり順番を並び替えたとしても、あくまでも部分最適化の域を出ず、結果ぶっ飛んだものにはならないのではないか?と思うのです。

しかしながら広告費をかけずに AB テストを仮想脳を通じて実行するほか、特に TVCM やラジオ広告、チラシ広告(実際に広告に対する何かしらのリアクションがあれば仮想脳の可能性はゼロではないとのこと)のようにデジタルほど広告に対するリアクションデータが取れない広告媒体での配信前シミュレーションや、失敗のできないような広告案件(広告展開を大々的に行い、超有名タレントを起用しテレビで5,000GRP投下して全紙30段、山手線ジャックして国民全体の認知率を50%を狙うような、一時期のPayPay のような案件)では仮想脳はかなり重宝されるように感じました。

「仮想脳」が正確なシミュレーションをほしいというニーズにも、クライアントを説得するための数値的根拠がほしいというニーズにも、キャンペーン前にピリピリしている決裁権者を安心させたいというニーズにも答えられるものだと思うからです

また「仮想脳」を通して作られたクリエイティブの方がパフォーマンスが良かったという話は自分としてはとても刺激的でした。中目黒最適化のような状態には陥らないようには気にかけていますが、真にエンドユーザーに寄り添わなければ、結果的にこの手の技術に軽く追い抜かれてしまう広告を作る運用者になってしまうはずです。

こういった技術が普及した際には使いこなせるようになりたいとも、こういった技術がもっと普及し台頭してきた際にはそれに負けないような広告を作れるようになりたいとも考えさせられました。