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今から約10年前の2015年5月に公開され、当時一部で話題となった『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』を、この GW 連休中に再読しました。
通読し、約10年後の現在(2025年)にこれを丁寧に読み解く意義があると思い、本記事にて解説することにしました。
目次
前提として、いくつか説明しておきたい点があります。
まず本書は、著者である江波戸 浩之氏(Amazon 上はh.eba氏)によって、はてなブログで公開された記事群をまとめ、構成されたものです。
DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか(江波戸浩之)
https://h-ebato.hatenablog.com/
Kindle でも、同内容を読むことができます。
DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか: 『枠から人へ』は間違いだった | h.eba
いずれも2015年5月に公開されたものであり、前述の通り、今から約10年前に公開されたものになります。
最初に結論を書くと、私は著者の主張に対して概ね肯定的です。
しかし、著者の主張に対して完全に同意しているわけではなく、まずその点についてご留意いただきたいです。
詳細後述しますが、「本書における著者の主張」以降、著者の主張を批評的に読み解いていきます。
まず本書のタイトル「DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか」にもある「DSP」と「アドネットワーク」について、読み解いていきます。
前提として、本記事において言及されている DSP とは、Demand-Side Platform の略で、広告在庫の買い付け、広告配信、掲載面・オーディエンスのターゲティングを管理するサービスを示します。
本書の中でも言及されているとおり、国内でもフリークアウト社などが提供しているもののほか、さまざまな DSP が存在しています。
アドネットワークとは、広告の掲載枠をもつ Web サイトやブログ、ソーシャルメディアなどを束ねた広告配信の仕組みを示します。
有名なものをあげるとすると、次のようなもの1が挙げられるのではないでしょうか。
- Google ディスプレイネットワーク(GDN)
- Yahoo! ディスプレイ広告(運用型)(YDA)
- Meta 広告 Audience Network(オーディエンスネットワーク)
- LINE 広告ネットワーク
タイトルにもあるとおり、著者は下記のような前置きはしつつ、一貫して「DSPはアドネットワークに勝てない」と自論を展開していきます。
最初に断っておきますが決してDSP(Demand Side Platform、以下DSP)を否定する意図はありません。DSPは将来性のあるサービスです。ただし現状は十分に力を発揮できていません。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
前述の通り、著者の意見に完全に賛同するわけではないのですが、概ね著者の主張する論は10年後の現在も正しいです。
またその論を著者が形成するにあたり、以下2つの点が特に素晴らしく、そのため10年後の今あえて読み解きたいと考え至りました。
- なぜそうなるのかを構造的に読み解いている点
- 持論を裏付ける一次情報をしっかりと収集し、本書内で言及している点
また著者は本書にて、タイトルにもあるとおり「DSPはアドネットワークに勝てない」という論を述べたのち、「ではどのような変化が必要なのか(あるいは変化への対応が必要か)」という点について述べています。
まずは著者が「DSPはアドネットワークに勝てない」と述べる根拠について見ていきたいと思います。
まず著者は「DSPはアドネットワークに勝てない」という論を展開する上で「構造的な理由」がある点について、言及しています。
筆者は、DPS は構造的な弱点を抱えていると考えます。それが強みになる場合もあるので一概にどっちがよいというわけではありません。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』(原文ママ)
特に本書「DSPの構造的弱点」「1兆超の組み合わせは見えざる手で」が、その点について詳しく言及されたパートとなります。一部引用しつつ、見ていきましょう。
DSPは広告主側のプラットフォーム、SSPはメディア側のプラットフォームで、それぞれ別の事業者が担う「水平分離型」となっています。
一方、アドネットワークは、広告主とメディアのプラットフォームが一体となっており「垂直統合型」と言えます。
そしてアドテク業界では「DSP」と「SSP」が連携する「水平分離型」が増えています。そしてこの水平分離型の弱点がモロにDSPに降りかかってきます。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
また加えて著者は、各要素(ユーザー、枠、クリエイティブ、LP、タイミング、料金)でそれぞれ100以上の要素があるのであれば、100の6乗で1兆以上の組み合わせが生じる点について言及し、それを瞬時に、最適に実施すること(あるいは実施できる人を確保すること)は可能なのかと問います。
このアルゴリズムを考えることができる能力ある人材は、そう簡単には見つからないでしょう
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
DSP が水平分離型(つまり DSP 単体では意味がなく、SSP などとの連携が必須である)であり、そもそも連携において無理が生じること、そして独自に一次情報を収集し、その無理が現場に降りかかっており、新機能導入を億劫に感じている方が DSP、SSP を運営する方の中に存在していることなどを前提に考えを深めていきます。
実際にDSPとSSPの業者から「すり合わせが面倒だから新機能導入が億劫」と聞いたことがあります
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
しかしながら冒頭でも伝えた通り、著者には DSP を否定する意図はなく、DSP のメリット(スモールスタートでき、スケールした際にメリットもある)にも言及しています。
水平分離型の強みとしては、スモールスタートしやすいことや、グローバル展開する時など分業不可欠な時でしょう
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
しかしながら、それでも「DSPはアドネットワークに勝てない」という論を深めていきます。
本書の中で特に興味深いのは、「DSPがアドネットワークに勝てない」の文脈から外れたところで展開されている話にはなるものの、著者が広告配信サービスの管理画面の利便性に注目し、指摘している点です。
面白くない内容ですが、管理画面を軽視するサービスも多いので言及します。広告配信サービスが簡単に広告効果を上げる方法は管理画面を使いやすくすることです
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
管理画面が使いづらければPDCAを回すのも面倒くさくなってしまいます。ミスも起こりやすく、管理画面に触れるのも嫌になります。管理画面を重視していない広告配信サービスは筋が悪い可能性が高いです。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
後ほど詳しく言及しますが、この点に関しては、成功する広告配信サービスの本質を的確に見抜いた指摘であると評価せざるを得ません。
またこれは2015年の情報ということを前提に理解を進めていく必要がありますが、著者は複数のアドネットワークの名称をあげ、それらが優れている理由の1つに「管理画面の利便性」をあげています。
①配信方法が枠毎の広告効果によって枠毎に入札単価を自動で変動させる
※DSPは配信先を人を中心に決めます
※配信方法は選べる
②DSPが流行る前からサービス開始
2社共DSPが流行る前から広告配信サービスを行っており、高度なアドテクを使わない時代に、いかにCPAを下げられるか考え抜いてきた歴史があります
③管理画面が使いやすい
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
著者は構造や利便性以外にも、2つほど予見を残しています。それらについても解説していきます。
著者は、アドテクが今後ますます進化していくことを予見し、「そうなった場合でも求められることはある」とし、コンサルの強化を提示しています。
アドテクが進化しようとも人にしかできない大事な領域もたくさん残されています。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
具体的には、広告配信業者がクリエイティブ制作や LP 制作に介入するほか、LTV を高めるためのノウハウ提供などを促すようにシフトしていくことの重要性を説いています。
詳しくは「超希少な人材を確保しろ」を参照していただければと思いますが、著者は人材確保の重要性についても言及しています。
アドテク業界は「人材大事度合いが強い」方だと認識し、採用に注力する必要があります。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
アドテクど真ん中の仕事内容というと地味な部分が多く、好奇心旺盛なタイプには長続きしにくい面があります。
そんな業界に、そんな希少な人材を留めておくというのは簡単ではありません。具体的な人材確保術は他の書に譲るとして、とにもかくにも人材に注力する姿勢が大事ということです。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
著者は特に「必要な人材」として、次のような条件を提示しています。
アドテク業界に必要な技術とはなにか。まずは、実務、コミュニケーション、マーケティングなどの、基本的なビジネスの勉強・経験が必要です。
その上で、人格者であり、考えるのが好きであり、数字も得意。キャリアとしては、広告主側、メディア側、中の人、それぞれの立場で複数のアドテクサービスを利用していると望ましいです。この組み合わせの人材は国内に3桁いないと思います。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
前述した通り、私は著者の主張に対して概ね肯定的ではある一方、著者の主張に対して完全に同意しているわけではありません。特に優れていると感じた点や、気になった点について触れていきます。
まず著者の論に対して、自分は概ね肯定的です。
例えば、以下3つなどは極めて的確かつ、中には10年後の今読んでも「まさにその通り」と考えさせられる内容といっても、差し支えないのではないでしょうか。
- DSP の構造上の弱点
- 管理画面の利便性がどのようにサービスの利用や、利用者の利益に影響を及ぼすのか
- コンサル事業への注力、人材確保に関する指摘
特に3.などは、広告配信事業者に限らず、広くアドテクの世界に関与している企業や組織の一員であれば、感じるところも強い点と言えるのではないでしょうか。
例えば、広告プラットフォーム側がクリエイティブを制作してくれる、あるいは制作を支援してくれるツールを無償で、管理画面上で提供してくれるなどの機能提供は極めて一般的なものとなっています。
実際に自分が編集長を務める「キーマケLab」でも、「広告運用ができる人材の採用難易度は上がっていますか」という質問に対して、6割以上が「非常に上がっている」「やや上がっている」と回答しています。

このように著者の指摘や提言、論には優れた点や肯定的に受け入れられる点も多々ある一方、読み進める中で気になった点も複数あります。
ここではそれを、1つずつ読み解いていければと思います。
そもそもなぜ、著者はDSP とアドネットワークを比較し、論じようと思ったのでしょうか。
単純に読み物としては面白い一方、実務にそのまま活かせるかというと難しい部分もあるように思うのです。
そもそも DSP とアドネットワークは、それぞれのまったくの別物です。
それぞれの良さや欠点があり、同列に並べて比較すべきかどうかという点については、議論の余地があるのではないでしょうか。
例えば、Meta 広告と Google の検索連動型広告を同列に並べて比較し論じることがないように、そしてそこに勝ち負けがないように、そもそも比較するにふさわしくないものをあえて2つ並べて比較している点について、疑問を感じました。
本書を読む限り、著者はそれぞれの違いや性質について精通していることが伺えます。
それでもなぜ、そもそもその2つを比較するに至ったのか、その点がまず気になりました。
本書のタイトルにもある通り、著者は「DSPはアドネットワークに勝てない」と一貫し論を展開しています。
しかし、「本当にDSPはアドネットワークに勝てないのか」という点について、改めて冷静に考えていく必要があると思います。
例えば、自分が好きな DSP で Criteo というものがあります。
Criteo は初期設定の複雑さなど難点もある一方、運用次第によっては成果が出ることも多く、現在 Web 広告を配信する多くの広告代理店や事業会社によって運用されています。
「Criteo は前述したアドネットワークに現状勝てていない」と断言できるのでしょうか。
もちろん、10年という時代の流れの変化の中で変わった点もあることも重々承知しています。
例えば、著者が「強いアドネットワーク(の代表格)」として「ネンド(nend)2」を例に挙げ言及している点に、実に2015年らしさを感じました。
アドネットワークが強いというのは少し語弊がありまして、「ネンド」と「アイモバイル」の2社が強くて、その他は伸び悩んでいます。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
前述「そもそもなぜDSPとアドネットワークを比較したのか」でも述べた通り、そもそも比較すべき点はその2つだけにとどまらず、著者がアドネットワークの中にも優劣があることを論じているのと同じように、DSPの中にも特性や、どのような広告配信をするかによっても優劣3が生じることがあり、それらによって生み出される差はこの10年の中で大きくなっていて、その差を構成する要素の中には、著者が本書の中で言及している点も含まれている。
そのように本書を読み解くと、より一層理解が深まるのではないでしょうか。
この10年でアドテクツールに限らず、「利便性」は大きく変わりました。
2025年現在「利便性」について語るのであれば、よりさまざまな視点から語る必要があるように思います。
実際に利用が増えているアドテクツール(DSP、アドネットワークに限らず、Meta Audience Networkを除くMeta広告など Walled Garden における広告システムなども広く含む)を見てみると、以下のような特徴があることがあると言えるのではないでしょうか。
- 快適に操作できる(単純に読み込みが早いなど含む)
- バグ、管理画面に対するアクセス障害の発生頻度が少ない
- どこに何があるかわかりやすい(あるいはそれを補完する検索機能が搭載されている)
- モバイルアプリなどからも確認や簡単な操作ができるようになっている
- 外部ツールとの連携の対応やその容易さ
10年経った今でも著者の指摘に関しては耳が痛い点もあるのですが、使いにくい、不具合がある、そういった広告配信プラットフォームは、たとえ成果が出たとしても、使われにくくなってしまう、あるいは提案時に避けてしまうといった傾向は一定あるように思われます。
最後に、再読時に特に興味深く読んだのが、著者のアトリビューションに対する評価そのものです。
詳しくは「アトリビューションは気にするな」を一読いただければと思いますが、著者はアトリビューションモデルに対して次のように明言しています。
「アトリビューション」はサービスの実力を隠すときに使いやすい営業トークの代表格になっています。営業マンがいきなり「アトリビューション」と横文字を並べてきたら警戒してください。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
自分が興味深く感じたのは、たしかに2015年前後、そうした言説や意見が存在していたことを思い出したからです。
著者はアトリビューションについて、次のように論じています。
「アトリビューション」は所詮、間接効果ということです。
まずは直接的な効果をちゃんと検証するべきです。例えばAの広告配信サービスとBの広告配信サービスを使って、Aの直接的効果が高ければ十中八九、間接効果もAの方がよいのです。
つまりネット広告のサービスを比較検証する際にはアトリビューションを気にする必要はめったにありません。
引用元:『DSPはなぜアドネットワークに勝てないのか』
著者の言う「めったに」の中に含まれるような、当時レアケースとされていたようなケースが、デバイスも広告配信面も多様化した2025年現在、増えているように思われます。
例えば、当時はまだ YouTube 広告を配信し指名検索を増やすといった取り組みは、まだまだ一般的ではなかったように記憶しています。
現在はそういった取り組みを行いつつ、広告の数値の変化を見ながら、同時に MMM 分析、指名検索の動きの監視、ブランドリフト調査などを実施し、各指標の動きを裏付けるような変化が正常に起きているかを確認する…といったような取り組みを展開するケースも、少なくとも自分の周りでは SCM などの影響もあってか増えています。
検索創出型マーケティング(SCM)|株式会社キーワードマーケティング
https://www.kwm.co.jp/service/scm/
文責:川手 遼一
- アドネットワーク例の参照元記事:「アドネットワークとは?特徴や仕組み、DSPとの違いや代表的な3つの媒体を紹介」 ↩︎
- nend事業は、2024年3月末でサービスの終了。参照元:「2024年12月期第1四半期決算説明資料」 ↩︎
- 優劣については案件の性質などにもよって変わり本題からズレるため、詳細な言及はここでは避けます ↩︎